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最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)544号 判決 1960年11月24日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人渡辺昇治の上告理由第一点について。

所論は、本件売買予約および売買予約完結権の譲渡が仮装のものであることを前提として原判決の違法をいうのである。しかし原審は、訴外株式会社研青社と訴外花川太吉との間に本件売買予約がなされたことおよび被上告会社は訴外花川太吉から本件売買予約完結権の譲渡を受けたことを認定し、そしてこれらがいずれも上告人主張のような仮装のものであると認めるに足る証拠はない旨を判示しているのであつて、右判断は、挙示の証拠関係に照らし是認できる。所論はひつきよう原審の裁量に属する証拠の取捨、事実の認定を非難するに帰し、採るを得ない。

同第二点について。

不動産売買予約上の権利を不動産登記法二条二号の仮登記によつて保全した場合に、右予約上の権利の譲渡を予約義務者その他の第三者に対抗するためには、仮登記に権利移転の附記登記をなせば足りるのであり、債権譲渡の対抗要件を具備する必要はないと解するのが相当である。そして、右附記登記がなされたときは、その順位は主登記たる仮登記の順位によることとなるのであるから、仮登記後附記登記前に同一不動産に対し第三者により仮差押の登記がなされたとしても、その後右不動産につき売買予約完結の意思表示がなされ、これに基いて所有権移転の本登記がなされた以上、右所有権の取得は仮登記の順位によつて保全される結果、仮差押債権者の登記は所有権取得者の登記に遅れ、これに対抗しえないこととなるのてある。

本件において、原審は、訴外株式会社研青社は、昭和二九年一二月二五日頃その所有の原判示不動産を訴外花川太吉に対し判示約定をもつて売り渡す旨の売買の予約をなし、花川の取得した売買予約完結権については、昭和三〇年一月二一日所有権移転請求権保全の仮登記がなされたこと、被上告人は同年七月一〇日花川から右予約完結権を譲り受け、同年八月一七日前記仮登記について権利移転の附記登記を経由し、株式会社研青社に対し売買予約完結の意思表示をなすとともに、同日前記仮登記の本登記をしたこと、一方上告人は、株式会社研青社に対する貸金債権の執行を保全するため、大阪地方裁判所の仮差押決定をえ、その執行として右仮登記後附記登記前である同年八月二日右不動産につき仮差押の登記をしたことをそれぞれ確定したものであつて、右事実によれば、前記仮登記によつて保全された本件不動産の売買予約上の権利を譲り受け、売買予約完結の意思表示をして所有権移転の本登記を了した被上告人は、その登記事項をもつて、右仮登記後同一不動産について仮差押登記を経由した上告人に対抗しうるものというべく、右と同趣旨の下に、本件不動産に対し上告人のなした仮差押の執行の排除を求める被上告人の請求を認容した原判決は正当であり、これと異る所論は採るをえない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)

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